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サイト閉鎖のお知らせ

諸般の事情により、2021年5月末日をもちまして「チャンスクリエーター」を閉鎖させていただきます。
これまでのご愛顧に対しまして、スタッフ一同、深く感謝するとともに心より御礼申しあげます。

長らくのご愛顧誠にありがとうございました。

重症心身障害児たちにとっての「隣のおばちゃんの家」。-特定非営利活動法人ほこっと 理事長 松井綾子さん

重症心身障害児たちにとっての「隣のおばちゃんの家」。-特定非営利活動法人ほこっと 理事長 松井綾子さん
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八王子市の住宅街に、特定非営利活動法人ほこっとが運営する「こあらくらぶ」がある。重症心身障害を持つ子どもとその家族の支援が、主な活動内容だ。理事長で、組織の立ち上げ人である松井綾子さんは、娘さんが呼吸不全で誕生してから入退院を繰り返し過ごした幼少期に、病院で重症心身障害児の子たちと出会い、その親御さんたちとの交流を続けてきた。

異例のスピードで八王子市の補助金を受給するなど、組織運営には大きなパワーを注いできた。その一方で、立ち上げ時からの「隣のおばちゃんの家という存在でありたい」という想いは17年以上経った今でも核として大事にし続けている。

松井さんの原動力となっているものは何か。また、地域の中での「こあらくらぶ」は、重症心身障害児とその家族にとってどのような存在なのか。お話を伺った。

 

特定非営利活動法人ほこっと理事長/松井綾子さん

特定非営利活動法人ほこっと理事長/松井綾子さん

行政を動かした、1年間の活動実績。

―松井さんが、重症心身障害児のための施設をつくろうと思ったきっかけを教えて下さい。

私の娘は横隔膜ヘルニアによる呼吸不全で産まれ、手術後も入退院を繰り返していました。ちょうど同じ時期に産まれた男の子は重症心身障害児で、通院すると周りは自然と重症心身障害児の子ばかり、という状況でした。当時は、在宅で医ケアをしましょう、という走りの時代。母親たちが家に籠って子どもたちのケアをします。薬は1週間分しか出してもらえないので、なくなる度に病院にもらいに行く。とても待たされる病院で、その間に院内で他の病気に感染してしまって入院する。みんな、その繰り返しでお母さんたちは本当に大変だったと思います。

ある日、医師が重症心身障害児の子どもたちだけ別室で待てるように部屋を用意してくれました。そこでは親同士が顔見知りになり、やがて待ち時間にちょっとしたお楽しみイベントなどもやるようになりました。当時、私は現場からは既に退いていたものの、保育士としての経験があったため、企画などお手伝いを始めました。患者仲間が立ち上げた『八王子障害児を守り育てる会』が、月に1回の勉強会を開催するようになったのもこの頃です。

やがて、子どもたちも大きくなり、学校に行くような年齢になると今度は別の問題が出てきます。当時、学校自体は重症心身障害児の受け入れ態勢が整っているわけではありませんので、親が教室の隅に待機して痰吸引や注入をする必要がありました。都立八王子小児病院小児外来の患者仲間で活動していた『カンガルークラブ』にも、学校が終わってからでは間に合いません。そこで、八王子市に相談して子どもたちの状況を見に来てもらったのです。市の職員の方も、「すべてお母さんたちがやっているんですか?」とても驚いていました。実際の現場を見てもらった効果は大きく、重症心身障害児を対象にはしていないが補助金をうけることを提案してくれました。都と市からの補助金は何年経っても受給できないところが多い中、なんと1年という異例の速さでの受給が決定したのです。ただ、この背景には、知り合いから病院の隣に拠点となる家を借り、家賃も親たちがねん出し、年間450人の受け入れ実績をつくったという大変な苦労もありました。

 

―スタッフの確保にも苦労されたのではないでしょうか?

母子分離の為には医療ケアを行うための看護師を入れなくてはならない、となったときは地域の方がブランクはあるものの育児も一段落したということで、快く引き受けてくださいました。その方は今も働いてくれています。また、私は開設当初から福祉施設のようにはしたくないと考えていました。隣のおばちゃんの家に行くという感覚を大事にしたかったのです。だから、福祉一筋で働かれてきた方よりも、育児経験のあるお母さんたちをスタッフとして迎え入れました。オムツを替えることに慣れている人たちです。ですから、マンツーマンの職員の体制は比較的スムーズに整いました。

 

組織が変わっても、核にある想いは変わらない。

―こあらくらぶが開設して、重症心身障害児を持つお母さんたちの負担は軽減されたのでしょうか?

時間的には大幅に自分の時間が持てるようになったと思います。ただ、これまで付きっきりでケアをしてきたお母さんたちの方が、急に預け先ができても子供から離れることができないのです。最初のうちは別室でお母さんたちが待機しているような状況もありました。お母さんたちは自分の子どものことが心配ということもあるのでしょうが、これまでなかった自由な時間が急に手に入っても、何をしていいのかわからないということが多かったのだと思います。今は完全に母子分離、送迎は必ず保護者に行っていただき、ひきつぎ・報告を口頭で丁寧におこなっています。

―比較的順調に運営をされてきたように思えますが、岐路に立つようなこともあったのでしょうか?

14年間続けてきたところで補助金制度が無くなってしまいました。看護師やマンツーマンのスタッフを雇っている以上、人件費は膨大なものになります。急にこあらくらぶがなくなってしまうと、利用者のお母さんたちも路頭に迷うことになりますが、そろそろ終わりかな、と思う気持ちもあったことは事実です。しかし、これまで補助金を助成してくれていた八王子市と東京都が必要性から存続策を考え、国も重症心身障害児の報酬を新たに新設してくれたのですが、常勤職員の配置や、療法士の配置が基準に加えられるなどの条件も新たに出てきました。もともと月に一度は療法士に来てもらいスタッフにポジショニングなど指導してもらっていましたが、毎回サービス提供時間中に配置しなければならないというのはかなり難しいことです。国の指定をうけて事業を行うために変えなければならないこともありました。

―具体的にはどのような変化がありましたか?

まず第一に利用している子どもたちの情報を、以前ほど入手できなくなってきた状況に対応しなくてはならないということがあります。設立当初は隣に都立小児病院があり、そこに通院する子がこあらくらぶにも通うということがほとんどでした。ですから、その子がどのような状況か、こちらも把握しやすかったのです。しかし、今は小児病院が府中へ移転し、子どもたちが通う病院も多様化したことから、こあらくらぶを利用する子の情報は以前ほど詳細には入らなくなっています。ここで子供たちが快適に過ごすためには、プロの目を通した環境づくりも視野に入れる必要がありました。抱っこのポジショニングや寝かせ方には、「お母さん」よりも「プロ」の技術が必要なこともあります。療法士の存在は、その点では非常に重要だと考えています。

―根底にある「隣のおばちゃんの家」という位置づけには変わりがないのですね。

もちろんです。ここを設立した頃からスタッフに伝えていることが二つあります。一つは、「とにかく楽しくしてやってください」ということ。ここに通う子どもたちは意思の疎通が上手くできません。でも、大人同士の会話を聞いて笑うこともあります。だから、ここでは「私語禁止」ということは一切ありません。子どもたちをほったらかしにしない程度にいろいろな話をたくさんして楽しい雰囲気を作ってください、と伝えています。もう一つは、「自分の家庭を大切にしてください」ということ。みんな育児をしてきたお母さんたちで、家庭のこともしっかりとこなしています。時間になったら残業などせずにタイムカードを押してさっと家に帰り家族の為に夕食をきちんと作る。利用者のお母さんと同じ主婦感覚をしっかりと持っていて、その延長線上で、こあらくらぶで働いています。でも、子どもたちに向き合うことで、どんどんプロになっていきます。時には、教科書には絶対に書かれていないような目線を持って子どもに接することもありますが、この感覚を持ち込んでもらうことがとても大切だと思っています。

―今後、こあらくらぶをどのような場所にしていきたいですか?

今、課題として感じているのは、重症心身障害児のきょうだいたちのことです。親御さんはどうしても、障がいを持つ子に時間も気持ちも向きがちです。一方、そのきょうだいたちは状況を理解するがゆえに、とても我慢をしていることが多いのです。私がお母さんたちに伝えているのは、「障がいを持った子のケアをする人はたくさんいます。でも、きょうだいに目を向けてあげられるのは親しかいません。」ということ。お母さんたちにはすぐには受け入れがたい意見かもしれませんが、私たちは送迎時に一緒にやってきたきょうだいたちにも積極的に話かけるようにしています。

また、ここに通う子どもたちに対しては、「どんな人にも対応できる子に育てること」を一番の目標に据えています。「ケアをしてくれるのは、このスタッフでなければダメ」という状況は好ましくありません。誰にケアされても平気。そうなることが目標です。世の中には外見も価値観も多様な人であふれていますが、そのこともわかってほしい。だから、ここのスタッフは制服などで統一されていません。動きやすければ服装は自由です。

「隣のおばちゃんの家」という存在は今後も継続していきたいと思っています。

 

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【プロフィール】

松井綾子(まつい・あやこ)

特定非営利活動法人ほこっと理事長

児童発達支援・放課後等デイサービスこあらくらぶ管理者

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●記事の内容は取材当時の内容であり、現状は異なる可能性がございますので予めご了承ください。

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