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保健師

サイト閉鎖のお知らせ

諸般の事情により、2021年5月末日をもちまして「チャンスクリエーター」を閉鎖させていただきます。
これまでのご愛顧に対しまして、スタッフ一同、深く感謝するとともに心より御礼申しあげます。

長らくのご愛顧誠にありがとうございました。

一緒に育ち合う保育施設を。-特定非営利活動法人こどもコミュニティケア 代表理事 末永美紀子さん

一緒に育ち合う保育施設を。-特定非営利活動法人こどもコミュニティケア 代表理事 末永美紀子さん
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神戸の閑静な住宅街に、ひときわ明るい色の建物がある。「ちっちゃなこども園にじいろ」だ。この保育園を運営するのは、看護師の末永美紀子さん。看護師と保育園という組み合わせは意外な感じもするが、ここは障がいや病気を抱える子どもも一緒に生活する保育園なのだ。末永さんは何をきっかけにこの保育園を始めたのか。またその時、キャリアの方向転換に迷いはなかったのか。お話を伺った。

 

ちっちゃなこども園にじいろ

ちっちゃなこども園にじいろ

子どもができたら辞めるのは当たり前だった。

―末永さんの看護師としての経歴を教えて下さい。

大学の看護学部を出てから大学病院に就職しました。保健師だった母の影響もあり、高校生になる頃には進路として看護師という職業を考えていました。実は卒業と同時に結婚したので、夫の仕事の関係で卒業後は地元を離れます。就職した病院で最初は小児を希望したのですが、経験を積む意味で内科と麻酔科の混合病棟に配属されました。受け持つ患者さんの大半は糖尿病を患った方ですが、血液内科やターミナル、交通事故のペインコントロールも経験しました。その病院には2年間勤め、その後夫の転勤で兵庫のこども病院に転職し、そこにも2年間勤務しました。

その後、出産を機に退職します。当時は今ほど制度やサービスも整っていなかったので出産をしたら辞めるのは当たり前。大学病院もこども病院もその点は共通していましたし、過去にも先輩たちが辞めたくないのにやめていく姿を見て疑問を持ち始めてもいました。また、看護師一人を教育するのには莫大なお金がかかっています。それなのに辞めなくてはならない状況がすぐにやってくるのは人件費の無駄であるとも考えていました。

 

特定非営利活動法人こどもコミュニティケア 代表理事/末永美紀子さん

特定非営利活動法人こどもコミュニティケア 代表理事/末永美紀子さん

―その時の経験が保育園を開所するきっかけとなったのでしょうか?

そうですね。ただ、「起業しよう!」と明確な目的意識を持っていたというよりは、目の前にいた、出産したら辞めたくなくても辞めなくてはならない先輩たちの少しでも助けになればという考えの方が強かったように思います。自分の身丈にあった規模で、少数でもサポートできればいいと思っていましたので、すぐに今の形態の保育園を開所する考えはありませんでした。

こども病院に勤めていたときに、入院中の子どものお母さんたちが「幼稚園に入れてもらえない」「この子は心臓が悪いから『万が一、何かあったら怖いから』とおばあちゃんにも預かってもらえない。退院したら、兄弟の送り迎えや学校行事のときにどうしたらいいだろう」と話しているのを聞いて「生まれつきの病気がある子どもは、保育や教育を受ける機会がとても少ないんだ」と知ったことが、原点です。

病院勤務を続けるのは難しくても、自分の子どもと一緒に自宅で他の子を見ることはできます。退院できるくらい状態が安定している子どもを、日中、数時間のことなら、保育士さんと協力して、経験の浅い看護師である私でもなんとかできるのではないか、と考えました。「必要なことは主治医や親御さんから教えてもらいなさい」と看護師長も背中を押してくれました。

 

―病院を辞めてからしばらくして保育所を開所したのですか?

いえ、病院を辞めた半年後には開所しました。とはいえ障がいや病気がある子どもさんだけを対象とした保育では経済的に成り立ちませんし、「一緒に育ち合おう」という理念とも離れてしまうので、長時間保育を始めることにしました。また、他の保育園での勤務経験を積むことも考えなくはなかったのですが、既にあるような保育園を作ろうとしていたわけではないですし、学ぶ時間があるなら始めた方が早いと考えていました。

 

自分なら、我が子をどんな保育園に預けたいか。

―「ちっちゃなこども園にじいろ」の特色は障がいや病気を抱える子も預けられるという点ですか?

それももちろんありますし、加えて長時間保育のお子さんに家庭的な環境を整えるということも柱の一つです。その根底にあるのは「シュタイナー教育」を基礎にした保育を提供していることです。普通の保育所のような「施設」ではなく、家のような雰囲気で年齢関係なく触れ合う異年齢保育です。

病気の子どもは子ども社会に参加する機会が限られています。長期入院している子だとテレビと大人が主な相手なので、社会性が優先される環境にありません。大人と1対1で関わるのではなく、子ども社会に当たり前に参加できる環境を作りたいと思っています。

同様に、母親がフルタイムで働くと、18時・19時まで保育園に預けて、帰宅前に買物して、ご飯を作って食べさせて、お風呂に入れて就寝が22時過ぎというサイクルになりがちですが、子どもの生活にはフィットしません。それであればお腹を空かせた状態で子どもを待たせるのではなく、保育園でみんなでご飯を食べましょう、そして帰宅したらお母さんとゆっくり団らんを楽しみましょう、という方が子どもは守られます。子どもの生活リズムを守り、一人一人の成長に合わせた保育をすることを重視したい。長時間保育が必要だったり、障がいや病気を抱えているような子にこそ、シュタイナー教育は必要だと思っています。

これまで日本のシュタイナー教育は、働くお母さんは対象外としていることが多かったと思います。働くことを選ぶような母親はシュタイナー教育を理解できないと言う方もいました。でもある時、シュタイナー教育が盛んなドイツで、家庭での生活体験ができる環境にない子どもを優先して入園許可している幼稚園があるということを知りました。これこそ本来あるべき姿だ、自分が我が子を預けるならこんな保育園がいいと考え、作りました。ちっちゃなこども園にじいろは、「どんな保育園だったら預けたいか?」という視点で作った保育園でもあるのです。

 

相手を尊重する言葉を。

―開園以来、大きなトラブルなどなく順調に進んで来られたのでしょうか?

 一度だけ、もう辞めようと思ったことがあります。原因は大きな赤字です。

認可外の保育施設ですから、公的な補助金はありません。民間の財団や研究助成など、取れる助成金はできるだけ申請してつなぎながらやっていましたが、毎年の赤字が多くなるにつれ、保育全体も逼迫していく様子が分かりました。『障がいや病気を持っている子どもたちも、みんな一緒に育ち合おう』『長時間保育の子どもたちにこそ、家庭的な環境を』というミッションを達成していくのは、園という現場を離れてもできるのではないか、赤字を抱えてスタッフも苦しい思いをして続けるのは、もうムリじゃないかと感じたのです。

もうひとつの課題は、組織作りの遅れでした。

始めた当初は数名で、上司と部下というよりも「仲間」という雰囲気で進んでいきました。とにかく忙しく、スタッフも私も無我夢中で、パートかフルタイムかといった違いによる意識や立場などあまりありませんでした。

ただ、スタッフの数が10名を超えるくらいになると、そうもいかなくなります。今考えると、その時、私はチームメイキングをしなくてはならなかったのに、仲間意識を抜け出せなかったのですね。元々、組織が持つ力を実感する一方で、それが強すぎることによる弊害も理解していたので、その意識が「マネジメント」の役割を遠ざけていたのかもしれません。「私たちは保育チームとして何をするのか」という行動にフォーカスできず、「あの人が分かってくれない」とか「温度差がある」とかいう気持ちの部分に大きく引っ張られて、子どもの保育に集中できなかったり、失敗や非難を恐れたりして、話し合いももてない、という状況も生まれました。

経営者と、資格を持ちながら組織に属して働く人のメンタリティーの違いもわかりましたし、自分の感覚がスタッフと同じだと思うのは違うということも、少しは理解できるようになりました。

今でもスタッフとぶつかることはあります。でも、ぶつかり合いもひとつのチャンス。「子どもたちのために私たちは何をするのか? 何をしないと決めるのか?」ということにフォーカスした話し合いを持ち続けるように努力しています。

特に病気や障がいを持っている子を預かることは大きな緊張を伴うものです。ここでは直接的な医療ケアは看護師が行いますが、それ以外の日常援助はすべて保育士が行います。「私たちは医療職者ではない」と反発する保育士さんも多くいますが、うちに入職するときには覚悟を決めて入ってきてもらいます。そんな時、相手の言葉を理解するということを心がけています。保育士は病気のことはわからないかもしれないけど、ここで預かっている間は自分たちがお母さんの代わりなんだというプロ意識はとても強いのです。だから、「病気のことを全部知るのはたいへんだし、その必要はない。でも、お母さんたちも、医療職ではないけど、24時間育児やっているんだよ。せめてここで預かっている子の病気のことは勉強しよう。」と伝えています。スタッフの不安を受け止め、もっと伝えられる言葉があるのでは、といつも探す努力をしたいと思っています。ひとりひとりのスタッフに寄り添った言葉をかけることの重要性を感じ、少しは身につけるまでに8年かかりました。今は、すばらしいメンバーにも恵まれ、組織としても上手く回っていると思います。でもいっそうの努力も必要ですね。

 

地域の人も出入りできる場所を作りたい。

―今後、どのような展開をしていきたいのかお考えのことはありますか?

小規模保育園を軸にしたデイサービスなどをできたらと思っています。一つ一つを大きくするつもりはないので、あくまでも利用者の顔がわかる範囲でやりたいと思っています。

この保育園には卒園生がよく遊びに来るんです。ですので、施設内での共生保育や住宅街の中にある学童保育もいいなと思っています。今は、待機児童に対する施策が注目されていますが、障がいや病気を持つ子どもの一時保育のニーズが満たせていないという現状があります。児童発達支援に週に何日か通い、訪問看護も併設されているというのが理想ですね。ゆくゆくは、その訪問看護も大人のケアができるようになるといいなと思っています。

自分でできる範囲の規模で行うことで、「これくらいの規模であれば自分にもできるのでは?」と始めてくれる看護職が増えることを期待しています。国の制度が対応しきれていないということもありますが、地域でケアできる保育園がどんどん増えることを望んでいます。

 

看護師の自由さは価値。

―最後に、看護師の方へのメッセージをお願いします。

看護師という仕事の魅力の一つは安定していることです。資格をもっていれば、ある意味働き方を担保されていると言っても良いかもしれません。たとえば、何か事業を立ち上げて仮に失敗して借金を背負っても、自分の体が続く限りは稼ぎ続けることができます。そういう自由さがあることが、この職業の価値かもしれません。私はこれからも自分の理想を追求できる環境に身を置いていきたいと思っています。

年を追うごとにチャレンジする機会は減っていきます。「あの時やっておけば良かった」と後悔するくらいなら、「いつか○○するのが夢」と言い続けるくらいなら、やって失敗したほうがいい。親のそういう背中を見せることも、子どもの教育の一つでもあると思っています。

 

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末永美紀子(すえなが・みきこ)
特定非営利活動法人こどもコミュニティケア 代表理事。看護師、保健師、保育士、認定心理士。大学病院、こども病院での勤務を経て、2002年に団体を設立。看護師の経験を活かし、障がいや病気を抱える子どもも受け入れる保育施設を運営する。

●ちっちゃなこども園にじいろ
http://niji-iro.info/

●特定非営利活動法人こどもコミュニティケア
http://blog.canpan.info/kodomo

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●記事の内容は取材当時の内容であり、現状は異なる可能性がございますので予めご了承ください。

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