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サイト閉鎖のお知らせ

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「スマート介護士像」を作りたい―社会福祉法人善光会/介護ロボット研究室 室長・徳山創さん、バタフライヒル細田 施設長・宮本隆史さん

「スマート介護士像」を作りたい―社会福祉法人善光会/介護ロボット研究室 室長・徳山創さん、バタフライヒル細田 施設長・宮本隆史さん
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ニュース等でも話題となることが増えた「介護ロボット」。様々な企業や研究機関が開発を進めているが、実際の現場では、どのように活かされているのだろうか――

都内で複数の高齢者施設を運営する社会福祉法人善光会(本部:東京都大田区)に設置された「介護ロボット研究室」。その立上げから関わる室長・徳山創さんと、現場への導入推進を中心的に行う特別養護老人ホーム「バタフライヒル細田」施設長の宮本隆史さんにお話を伺った。

システムの側面からの社会貢献

―まず、徳山さんにお伺いします。徳山さんは、大手のシステムインテグレーターから2010年に現職場へ転職されていますが、福祉施設を運営する法人を選ばれたのはどうしてですか?

徳山さん(以下、敬称略):介護施設を利用したいというニーズは多くあり、それに応えるためには施設が増えていけばいいのですが、施設の設置や運営には公の税金も使われます。とすると、できるだけ効率的に運営する方が、世の中のためになるだろうと。複数の施設を一括で束ねていくにはシステムが必要不可欠で、そのためのシステム作り――ということに携われる点に仕事としての面白さを感じ、事業体側に転身しました。

―入社されて、まずはどんなところから着手されましたか? 

徳山:まずは業界啓蒙から着手しました。具体的にはiPhone/iPadアプリ「介護マニュアル」の作成です。入社して、社内を見回してみると、介護のノウハウは法人に蓄積されていたが、一方で外を見てみると、在宅で介護をせざるを得ないけれども、何をしたらいいかわからないという声も聞こえる。一般の方との情報格差があることが気になりました。社会福祉法人として、ノウハウの情報提供も社会的使命ではないか、社会貢献になるのではないかと考えて、アプリの企画・開発を行い、無償公開を実現しました。その後は、内部に目を向けて、施設ごとに異なるシステムを統一化して、データベースの共有や効率化をすることに取組みました。その後は、現在の介護ロボット研究室に立上げから携わっています。

介護現場の未来のために日々奮闘中の徳永さん

異業種からの転身。介護ロボット研究室 室長の徳山さん

目指すのは機械と人間のハイブリッド

 ―介護ロボット研究室では、どのような取組をされているのでしょうか? 

徳山:介護ロボット研究室の役割としては、大きく3つあります。一つは、既に製造・販売されている介護ロボット機器を介護現場に導入すること。二つ目は、現場からの声を元に、ロボット機器(ソフトウェア)を作ること。そして三つ目は、現場のニーズを知りたいメーカーとの共同実証です。

―試験導入や実証する際には、バタフライヒル細田で行うことが多いと伺いましたが

徳山:はい。細田の施設において、機械と人間の融合(ハイブリット)を目指すという意味で「ハイブリッド特別養護老人ホームプロジェクト」と名付けたプロジェクトを立ち上げていまして、この中の特に一つのユニットを中心に、集中的に介護ロボットを導入して実証・検証を行っています。法人の中でも最もロボット化が進んでいる施設であり、ユニットと言えると思います。

介護ロボット機器を積極的に導入。宮本さんが施設長を務める特別養護老人ホーム バタフライヒル細田

介護ロボット機器を積極的に導入。宮本さんが施設長を務める特別養護老人ホーム バタフライヒル細田

 

 

 

 

 

 

トライアンドエラーを積み重ねて

―そこで、施設長の宮本さんと協力して推進される場面が多い、というわけですね。具体的には、どのような介護ロボットが導入されていますか?

徳山:様々な社内外プロジェクトで介護ロボットを導入しておりますが、昨年度の大きなプロジェクトは、公益財団法人テクノエイド協会の厚生労働省・経済産業省案件「ロボット介護推進プロジェクト」「モニター調査事業」における3つの機械導入になります。 一つは「電動歩行アシストカート」(シルバーカーの電動版)です。実際にお客様に使っていただいて、歩行能力が向上するのかどうか、自社開発の歩行機能の測定機器と組み合わせて実証しました。

―施設側としては、導入してみていかがでしたか?

宮本さん(以下、敬称略):我々としては、「実際に使ってみてどうなのか」――利用されたお客様にとって、どのような効果があるのか、という観点で効果測定を行わせていただきました。その結果としては、まだまだだな、というのが正直なところです。介護現場のニーズと本当の意味でマッチした商品は、中々出にくいのが現状で、特にお客様が実際に使用する物については難しい傾向があります。センサーや見守り系等、直接肌に触れないタイプの機器は、実際の現場でも活用できるものが増えていますが、歩行や移動の補助は難しい場合が多い。ただ、このアシストカートにしても、早く歩きすぎるときや後ろに倒れそうなときに少しブレーキがかかったり、考えている要素としてはすごく良いと思うので、次の開発でどう改善していくのかが重要かなと思っています。

電動歩行アシストカート

電動歩行アシストカート

―実際に使えるものにしていくために、このような検証を積み重ねていく必要があるのですね

宮本:介護業界全体的に、新しいものの導入に慎重な傾向があります。エビデンス(証拠・根拠)が無いと入れたがらない。我々としてはそうではなく、試験導入の段階からメーカーと一緒になって、ノウハウの蓄積も行っていくという意義・役割を担っていると考えています。

徳山:デモンストレーションだけで購入に至らなかったものも含めると、大小20以上の機器をこの施設では実証しています。施設現場でのトライアンドエラーをここまで積極的に行っているところは珍しいと思います。

 

オペレーションまで考えた開発が必要

―この他に、どのような機器が導入されていますか?

徳山:夜間帯の見守り用の赤外線センサーを導入しました。肌に触れずに、起き上がろうとする動きを察知することができるタイプです。

宮本:このセンサーは、呼吸や動いているかどうかも感知することができる、というのが評価できるポイントです。夜間帯には介護職1人で20~30名の利用者様を受け持つ状況があり、複数の利用者様に対応しなければならない場面に遭遇した際、優先度を正確につけて駆け付けることができるというメリットがあります。

ベッド上に取り付けられた赤外線センサーが感知した情報は、介護職員の手元のタブレットで見ることができる

ベッド上に取り付けられた赤外線センサーが感知した情報は、介護職員の手元のタブレットで見ることができる

徳山:この他だと、お客様をベッドから車椅子へ移す「移乗」を介助するアシスト装置を実証しました。介護職員の腰への負荷・腰痛は、業界でも問題視されているため、移乗介助のマシンは多数開発されていますが、昨年度は吊り上げ式のタイプを実証しました。

宮本:ただ、この移乗介助の類の機器は、どれもオペレーションにマッチするものが出ていないのが現状です。介護の現場は、1人で何人もの方の対応を行わなければならない状況の中で、取扱いに手間がかかるものは運用がしづらい。かといって、速さを優先させてしまえば、安全性や快適さが保たれない……等の難しさがあります。

徳山:最終的に日本の全施設がこの機器を導入してオペレーションがまわるか、という観点でみると、乗り越えるべき課題は山積みです。また、機械だけ与えられても意味がなくて、例えばロボットがゆっくり作業をしている間に介護職は並行して他の業務を行う等、オペレーションも一緒に作る必要があると思います。

―現場での運用の仕方まで含めて考えていくことが大切なんですね

宮本:実証して使えるものにしていくのは、現場を持っている我々の役割。ロボット研究室と現場とで、一気通貫してできるのが強みかなと思っています。

徳山:ただ業界自体のロボット開発のレベルもまだまだ。これからもっと発展していかないといけないと考えています。

 

現場には、ボトムアップとトップダウンのミックスで導入

―お客様の声としては、いかがですか?

宮本:電動歩行アシストカートを気に入って肌身離さず利用してくださっている方もいます。また、別のセンサーでは、立ち上がった際に職員に知らせるためのアラームで職員の声を入れられるものがありますが、ただのアラーム音では反応しないのに職員の声が再生されると、「あら」と立ち止まってくださる利用者様もいたり(笑)。どの機器も、まだすべての利用者様にマッチするわけではないのですが、重宝している場面も出てきています。

「スマート介護士像」を作りたいと語る宮本さん

特別養護老人ホーム バタフライヒル細田 施設長の宮本さん

―職員の方の反応は、どうでしょう。新しい機器を導入する際には、スムーズに対応できていますか?

徳山:福祉業界全体で、もちろん命を預かっている現場であることから、職員もプライドを持ってやっているので「これで大丈夫なのか」という疑念の観点はどうしても入ってきてしまいます。ですので、ここまではできる、こういうところがよくなる、でもここは課題だし注意しなければならない」など現場レベルでの説明をしっかりして、少しずつ進めていくというのが私たちの役割でもあります。トップダウンで導入しても倉庫入りになってしまう。ボトムアップ式に「このお客様はこういうところで困っていて、だからこの機器で役に立てるんだ」という現場にとってプラスになる話と、法人としての考えで「介護業界の未来のためにロボット化は不可欠で、イノベーションを起こしていきたいんだ」という話をミックスして、説明して、導入して…というのを繰り返しながら、できるだけ納得してもらえるように推進しています。

宮本:ただ、この施設に関していえば、もともと「やってみよう感」が強い施設だと言うのもありましたし、徐々にそうした職員の抵抗感は無くなってきたと思います。最近では一段階違うフェーズに入ったというか、今後はより実証の精度を上げていきたいと思っています。導入する機器のどこをどう見ればいいのか、というのをメンバーにしっかり教えていきたい。

 

ロボット機器を扱える「スマート介護士像」を作っていきたい

―今後の展望、目標について教えてください。

徳山:お話したように、「介護ロボット」としての観点でいくと、まだまだの段階というのが現状。今の介護ロボットは、元々産業用ロボットの技術を移植して作られてきました。機械から機械に、固まっているオペレーションをこなしていくことを得意とする産業用ロボットが介護ロボットへと転身するにあたって、具体的な課題に直面しているという状況です。お客様も、機器を扱う職員も「人」なので、産業用ロボットのように同じリズムでできるはずがない。お客様の状態、介護職員の状態も違う。さらに、高齢化が進むに伴い一人で見るべきお客様の数は増えていく状況に、どう対応していくか。介護ロボットの発展のために、機器の改良と現場オペレーションの改良の両輪をまわしていく、というのが介護ロボット研究室の目標です。

宮本:今後、介護人材は何万人も不足していくというのは予測されていることで、担い手を増やすためには、外国人の登用も必要とされていますが、ロボット機器での効率化・1人でやらなければならない業務軽減をはかることも必要です。我々としては、そうした事態に備えて、いち早くロボット機器を導入・実証しながら、本当に使える介護機器を作っていく必要があると考えています。また、中長期的な目標として、介護のスキルや知識に加えて、介護ロボットの機器を取り扱えるという観点を加えた「スマート介護士」像を作っていきたいと考えています。世界的に見れば、ノーリフトといって、介護職員が移乗をやってはいけない国もあります。日本独自の考え方もあるので、完全にそうなるかは分かりませんが、流れとしてはロボット機器の出番は増えてきます。そうした時代に備えて、ロボット機器を取り扱えるし、取り扱うことに対して前向きな介護士を育てていきたい。専門学校さんとも協力して、学生の段階から興味を持ってもらう等の取り組みも考えています。

―最後に、お二人は、お互いにどのような存在ですか?

宮本:現場として導入できそうなもの、現場ではこれが大事だろうという観点をふくめて、きちっと選定してやってくれる。本当はもっと議論の時間を取る必要があるようなことでも、現場のことも理解してくれているので、あうんのような呼吸でできるのがありがたい。信頼して仕事ができています。現場以外の周辺をうまく整理して、しっかり推し進めてくれる点も頼もしい存在です。

徳山:どんなシステムも、どんな機器も、うまく使いこなせなければ意味がない。ものを作って終わりではなく、しっかりとオペレーションして実業での成果を出すことが重要です。そういった意味で、最も推進してくれるのが宮本で、絶大な信頼を持っています。これまで様々な施設を経験しているので、他の施設への導入にあたってもアドバイスをくれる。また、どうしたらお客様の役に立ち、現場の負荷を減らすことができるか、現場レベルで考えて推進してくれる、このプロジェクトにおいても必要不可欠な存在です。

徳永さん(左)と宮本さん(右)

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【プロフィール】

  • 徳山 創(とくやま・はじめ)

社会福祉法人善光会/介護ロボット研究室室長

ITコンサルティング会社にて製造業向けシステム開発・構築などを担当、海外でのシステム導入案件に関わる。大手システムインテグレーターにて大規模な金融システム開発案件のプロジェクトリーダーに従事した後、2010年より社会福祉法人善光会においてシステム化の推進に参画。2013年8月より介護ロボット研究室の室長に就任。

  • 宮本隆史(みやもと・たかし)

社会福祉法人善光会/特別養護老人ホーム バタフライヒル細田 施設長

大学卒業後、2007年に社会福祉法人善光会に入職。介護一般職からスタートし、ユニットリーダー、フロアリーダー等を経て2011年新規オープンのグループホームの管理者、グループホーム3施設の統括管理室長を経験。2013年4月より、特別養護老人ホーム「バタフライヒル細田」の施設長に就任。70名程のスタッフのマネジメントや施設運営を行う。


◆社会福祉法人 善光会/東京都大田区東糀谷六丁目4番17号

http://zenkoukai.jp/

◆バタフライ ヒル細田/東京都葛飾区細田四丁目20番14号

●記事の内容は取材当時の内容であり、現状は異なる可能性がございますので予めご了承ください。

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